トランプ米大統領の関税の威嚇でドルは先週、再び上昇したが、米景気減速の兆しや貿易戦争によるドル先安観を背景にドル下落を見込む投資家が勢いを増している。
ドル弱気派は資産運用会社のインベスコやヘッジファンドのマウント・ルーカス・マネジメントなどに広がっている。ウォール街では、モルガン・スタンレーやソシエテ・ジェネラルが顧客に対し、ドルのロングポジション(買い持ち)に過度に取引が集中し、持ちこたえられない恐れがあると警告した。
いずれも関税の発表に伴う日々の変動は受け流し、ドルの見通しは暗くなるばかりと考えている。輸入関税でインフレが再燃し、金利高止まりがドルを支えるという想定に代わり、関税を巡る不確実性が既に減速の兆しを見せる景気をさらに損なうリスクがあると不安が台頭しつつある。
その結果、米金融当局の利下げに市場の期待が高まり、ドルの魅力は低下。前四半期の7.1%のドル上昇を支えた米経済の「例外的強さ」のオーラも薄れつつあり、トランプ大統領の内政および外交政策に投資家は思いを巡らせている。
ソシエテ・ジェネラルの為替戦略責任者、キット・ジャックス氏は「ドルは既に明らかに高く、トランプ氏がさらに大きく上昇させることはできないと思う。それでは、ドルを下落させることはできるかと問われれば、米経済にダメージを与えればもちろん可能だ」と指摘した。
リスク選好の波が米株式相場や米国債利回りを押し上げる中で、ドルは大統領選後、トランプ氏が就任する前に付けた高値から2%近く下落している。
先週は、今の環境下でドルのショート(売り持ち)ポジションを持つ危険性が浮き彫りになった。トランプ大統領がメキシコとカナダへの25%関税を3月4日に発動すると発言したことを受け、ドルは2月27日に急伸し、2月の下げ幅を縮小。トランプ氏は中国からの輸入品に10%の追加関税を課すとも述べた。
28日にはドルはさらに上昇した。トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談で激しい口論となり、重要な鉱物資源に関する取引で合意に至らず、ロシアとの和平合意を目指すトランプ氏の取り組みは暗礁に乗り上げた。
ただ、欧州の防衛に新たな関心が集まったことは、同地域通貨を対ドルで押し上げる可能性もある。欧州の指導者らは防衛費増額と米国が仲介する可能性のある停戦後のウクライナの安全保障について協議。これを受け、アジア時間3月3日早朝にユーロは上昇。追加支出が同地域の成長を後押しするとの期待から、ポーランドやルーマニア、北欧諸国の通貨も値上がりしている。
ジュネーブのタルガ5アドバイザーズのマネジングパートナー、イーライ・ミズラヒ氏は「ウクライナにとって強固で持続可能な安全保障の枠組みは、欧州の経済回復力と長期的な安定性を支えるのに役立つ」と述べた。
米国とウクライナの首脳会談が決裂した後のインタビューでベッセント米財務長官は、関税がかなりの歳入を生み出す可能性が高いとの認識を改めて示した。
関税に関するニュースは概してドル高につながる傾向がある。一般的に言えば、関税は輸入品の価格を押し上げ需要を減退させるため、それらを買うために必要な通貨のニーズも減る可能性があるからだ。
その一方で、投資家は先週、米経済が直面している逆風を再認識した。連邦政府機関の人員削減発表が一因となり新規失業保険申請件数は今年最高の水準に達し、中古住宅販売成約指数は過去最低を記録した。こうした背景から、ドル弱気派は自らの方向性が正しいと確信している。
マウント・ルーカス(運用資産17億ドル=約2600億円)のデービッド・アスペル共同最高投資責任者は「市場は政権の政策のポジティブな側面だけを評価していた時期があった」と指摘。「政権が成長にマイナスとなるようなことをしようとしていることも、完全に織り込む必要がある」と述べた。
同ファンドは選挙後に高まった米経済成長への熱狂が薄れつつあるとして、英ポンドやメキシコ・ペソなどの通貨に対してドルショートのポジションをとっているという。
また、インベスコは数週間前、欧州の経済指標が予想を上回ったことを受け、ドルを「オーバーウエート」から「アンダーウエート」に修正した。
原題:Dollar Bears Seize on Notion of Crumbling US Exceptionalism (1) (抜粋)